2010年01月31日

“仲蔵狂乱”

松井今朝子「仲蔵狂乱」です。

わたしは、歌舞伎の世界のことをちっともわかってないのですが、松井今朝子氏の作品には引き込まれてしまいます。

松井今朝子氏はもともと松竹に勤務されていて、その後フリーランスになり、歌舞伎関係の執筆をなさっていたそうですね。

豊富な知識と資料の積み重ねが、リアリティに繋がるのですね。

わたしはこの作品の主人公「中村仲蔵」という役者のことを知りませんでした。

仲蔵狂乱
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5 生き生きと描かれている登場人物
5 歌舞伎に馴染みがなくても
5 繰り返す天国と地獄
5 感動!!


貧しい浪人の子として生まれ、三歳で両親と死に別れ、裏長屋をたらい回しにされて育った仲蔵。

売られるように、梨園に引き取られ、十歳で初舞台。

しかし、血筋の良さがものをいう世界で、「地鶏」である仲蔵が這い上がるには、想像を絶する地獄が待っていた。

不世出の名優が辿る波乱の生涯。


華やかな舞台の裏はなかなかに壮絶です。

女の嫉妬は怖いというけれど、男の嫉妬はもっと怖いような気がします。

門閥外でありながら、常に上を上を目指す仲蔵に、同僚たちは「身の程を知れ」とばかりに暴行を加えます。

暴行・・・というか「楽屋なぶりもの」と言うそうですが。

仲蔵は声が良くなかったそうです。

「役者は一に声、二に顔」と言われるそうです。

仲蔵は声をカバーすべく、呼吸の出し入れを研究し、舞、所作で観客の目を惹くように常に工夫しました。

「仮名手本忠臣蔵」で「定九郎」の役を振られたときから、仲蔵の運命は大きく変わります。

「定九郎」を、地に落ち、食詰めた生々しい浪人として演じてから、仲蔵の人気は江戸市中にとどろくこととなります。

次々と大役を演じるようになる仲蔵。

しかし、人気が出れば出たで、ありもしない噂をたてられ、恨みを買う。

立作者からは嫌がらせをされる。

義理立てする性格につけこまれ、大金をはたく羽目になる。

仲蔵の苦労は絶えません。

それでも一心不乱に芸に生きる仲蔵。

高みへと上り詰める姿に、こう、血が熱くなるような気持ちになります。

市川団十郎、海老蔵、中村勘三郎、松本幸四郎、坂東三津五郎など、現代でもおなじみの名前が登場します。

わたしは十分面白く読みましたが、歌舞伎に詳しい方だったら、もっと楽しめるのではないでしょうか?

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2009年12月31日

“辰巳屋疑獄”

松井今朝子「辰巳屋疑獄」です。

松井今朝子氏、面白いです!!

ちょっと前まで、江戸時代は戦国時代と違って、変化あんまりないしつまんないな〜、と思ってたのですが、最近とても好きです。

庶民(といってもピンからキリまでありますが)の生活が面白いです。

西村京太郎サスペンスばかり読んでいた故親父が、晩年(?)、時代小説ばかり読むようになったのが頭をかすめます。

イヤだな〜(笑)。

そんな、親父の文庫本の山を、亡き後、すべてBOOKなOFFに売って処分しちゃったんですけどね。

読んでから処分すればよかったかな〜。

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貧乏百姓の次男、十一歳の元助が丁稚奉公することになったのは、大阪一の炭問屋「辰巳屋」だった。

そこで出合った「辰巳屋」の小ぼん様(三男)、茂兵衛(後の木津屋吉兵衛)と出会い、師弟の契りを結ぶ元助。

成長した元助は、婿養子に出された茂兵衛改め木津屋吉兵衛のお目付役として、辰巳屋から木津屋に出されてしまう。

やがて、吉兵衛の兄が死に、辰巳屋の相続をめぐって、叔父と姪、主人と使用人が争い、幕府の役人から公家まで巻き込む大騒動が勃発する。

元助は、ただひたすら吉兵衛のために尽くすのだが・・・。

名奉行、大岡越前守忠相が「辰巳屋一件」と日記に記した贈収賄事件を、使用人の目から描く物語。


松井今朝子氏には、吉原、歌舞伎、奥御殿の世界を教えてもらいましたが、今度は豪商です。

「辰巳屋」は幕末まで長く栄えた大阪屈指の豪商です。

「辰巳屋」は手代約460人、家財金二百万両、銀にして十二万貫目(現在の2000億円!!!に相当)の大企業。

日本一の豪商、三井越後屋(三越)なんか、手代数千人以上いたそうですけど。

一石は一両に換算されるので、大名だと二百万石相当の家ということになります。

江戸時代に二百万石なんて大名はありえません。

あ、赤穂浪士の赤穂浅野藩は五万三千石、家臣308名だったそうです。

江戸日本橋に店を構えた大店は、上方商人の江戸店が多かったそうです。

紀伊國屋、奈良屋、淀屋、鴻池屋、泉屋(住友)、ぜーんぶ上方商人ですね。

ま、とにかく辰巳屋は、大名に一万両以上貸し付ける大富豪だったそうです。

主人公・元助(通称・ガンちゃん)は丁稚から手代へと成長していくのですが、そこのところで、昔の商人の育て方がよくわかるようになってます。

丁稚が掃除ばかりしてるのは、家人と客人の顔を覚え、なおかつ、人の顔色を伺い、駆け引きができるようになるため、なんですね。

二年くらいたつと、外へお使いに行かされます。

幼いうちから金銭に馴れさせ、贋金を見分ける力をつけさせる。

当時、江戸は金、上方は銀の流通が主だったので、悪貨をつかまないように仕込むのは大事だったと。

読み書き、算盤は先輩である丁稚頭からみっちり教わります。

元服して手代になると、事務仕事を任されるようになります。

その後、十年ほど勤めて、本家の番頭になるか、暖簾分けしてもらい独立、ということに。

すごいですね。

商売人を育て上げる教育制度が出来てたんですね!!

むしろ、現代のほうがまるで出来てないのでは・・・?

わたしは、こういうことを知るのがとても楽しい、面白いです。

大岡越前が日記に残した「辰巳屋一件」は、辰巳屋の跡目相続の争いが発端です。

長男が辰巳屋を継いで、次男は早くに亡くなり、三男(木津屋吉兵衛)は親戚筋の木津屋に婿養子に行く。

で、長男には本妻との間に娘がいて、娘が婿養子を迎えた。

その後、長男は亡くなった。

そうしたら、辰巳屋を継ぐのは、当然、娘の婿養子ですよね?

他家へ婿養子に行った三男が継げるわけありませんよね?

しかし、肝心の娘とその婿養子が、まだ年端もいかない子どもだった、ってところが問題なのです。

ずば抜けた秀才だった木津屋吉兵衛は、木津屋におさまる器ではなく、その才能をもてあまし、どうも間違った方向に進んでしまうタイプなのです。

才ありすぎるため、自分の実家にはつい口出ししたくなる。

真面目なだけの年寄り番頭をないがしろにする。

商家の根本をゆるがす人物なのです。

主人公・ガンちゃんは、主人を取り巻く不穏な空気を察知したり、見事に空気を読まなかったり・・・清々しいほど、愚直な性格なのです。

主人が大きな過ちを犯そうとしているのには、見事に気がつかない。

主人が辰巳屋の番頭から危ぶまれているのには気がつく。

主人を信じどこまでもついていくものと、主人が過ちを犯したら止めようとするものと、どちらが忠義者なんでしょうか??

木津屋吉兵衛の「辰巳屋」本家への介入を阻むため、番頭たちは、吉兵衛を訴えます。

それに対抗して吉兵衛は官へ賄賂を使うのです。

しかし、上方では「金至上主義」なため、商家レベルでは賄賂はごく当然のものとして考えられており、そこが話をややこしくします。

事件は流れに流れて、江戸の寺社奉行・大岡越前のもとに。

大岡越前守忠相は、幕府高官と大手両替商の癒着に手をつけ、町奉行から、栄転という名の閑職にまつりあげられていた。

その、大岡越前が、「辰巳屋一件」を裁くことになる。

なんとも皮肉なんですが。

裁きの結果は、死罪四人、牢死一人、自害一人。

賄賂を贈った商人の罪は軽く、受け取った官の罪は重い。

騒動を起こした張本人、木津屋吉兵衛は、遠島を許され、家財没収、軽追放。

大岡越前守忠相の扱った最後の事件は、大岡が圧力に屈することで幕を閉じます。

なんともすっきりしない事件の結末。

ガンちゃんが、事の重大さに気がつくのは、本当にラスト部分なのです。

罪を罪だと知らず、主人は六人もの命を奪ってしまったと。

その主人を止めなかった自分の罪を。

吉兵衛とガンちゃんに質素な弔いの日々が訪れます。

事件の顛末はすっきりしませんが、物語の終り方は静か。

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あ、もうこんな時間か〜。

これが今年最後の更新になります。

よいお年を。

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うわぁあああああ〜!!

水樹奈々ちゃんの晴れ姿を見そびれたーーーっ!!!

今年最後の失敗。
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2009年12月01日

“道絶えずば、また”

松井今朝子氏の「道絶えずば、また」です。

「非道、行ずべからず」「家、家にあらず」に続く「花伝書シリーズ」三部作の完結編です。

「非道〜」「家〜」と、とても面白かったので、完結してしまうのがとても惜しい。

完結編なので、「非道〜」「家〜」からの伏線など、先の2冊を読んでからのほうが良いように思います。

登場人物も、そのほうがわかりやすいですし。

もちろん、この作品から入っても良いですが。

作品が発表された順番は「非道、行ずべからず」「家、家にあらず」「道絶えずば、また」です。

「非道〜」の数十年前が「家〜」

「非道〜」の五年後が「道絶えずば、また」です。

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名女形・荻野沢之丞が、奈落の底で不可解な死を遂げた。

一世一代の舞台納め、「道成寺」の披露の初日に。

類稀な才能を持つ次男・宇源次に名跡を譲ると決めながら、その後も長らく舞台に執着していた男の死は、中村座を混乱の渦に巻き込んだ。

長男の市之介か、次男の宇源次か。

名跡争い再び。

またもや血なまぐさい事件が。

一人前の同心になった薗部理市郎は、事件解決に乗り出す。

四代目荻野沢之丞は果たして誰が継ぐのか。

そして一連の事件は、実は思いもよらぬ場所から波及したものであった。


「非道〜」と「家〜」の事件をつなぐ事件が「荻野沢之丞の死」です。

他殺か自害かは、わかりません。

偉大なる父(世に稀な長命を保ち権勢を誇る化け物)を持った、二人の息子が対象的です。

面長でおっとりとした顔立ちの、父親そっくりの長男・市之介。

小顔で派手な造作の次男・宇源次。

市之介は性格もおっとりとしているのですが、父親の死にもあまり動じた様子はない。

宇源次は、やたら勝気な性格なくせに、心がもろいところがあり、父親の死に動揺しまくり、酒に溺れます。

市之介は、父・沢之丞が死に、客が入らなくなった小屋でも、ただひたすら舞い続け、宇源次は、泣き、酒を飲み、その後寺で修行をしたりと、逡巡し続けます。

市之介は何を考え舞い続けるのか?

宇源次はどうやって立ち直っていくのか?

「芸の道」をテーマにしたストーリーに、思いもよらぬ場所から「人の道」を投げかけるストーリーが絡みます。

「道絶えずば、また」とは、風姿花伝の

道絶えずば、また、天下の時に会うことあるべし

から。

たとえ人から見捨てられても、決してあきらめずにひとつの道をずっと歩み続けていれば、再び浮かび上がるときがあるだろう。

これは「芸の道」を説いたものなんですが、「人の道」にも通じる、と。

何が正しく、何が誤りであるのか、見極めるのは容易ではない。

知らんふりを通せば、何もかも丸くおさまることに、正しい判断を下すとき、人は何を思うのか?

「家、家にあらず」の主人公・瑞江(の数十年後)が重要な決断をします。

事件そのものは、あいまいな終り方とも言えなくないのですが、物語としては完結です。

血の繋がった家族、血の繋がらない家族、親子、兄弟、それらを結びつけるのは、「情」でした。

「情」あるゆえに人は過ちを犯し、「情」あるゆえに人は許しあう。

そんなことを考えました。

捨てられないものなんだよな〜。

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2009年11月20日

“非道、行ずべからず”

「吉原手引草」で第137回直木賞を受賞した、松井今朝子氏の「非道、行ずべからず」です。

「非道、行ずべからず」「家、家にあらず」「道絶えずば、また」の三作を、松井氏は「花伝書」シリーズと称しています。

タイトルはすべて世阿弥の「風姿花伝」から。

この「非道〜」と「道〜」は年代も同じ、ストーリーも続いている、と言ってもいいでしょう。

もちろん別々に読んでも良し、です。

「家〜」は、ちょっと番外編のような作品です。

三作読めば、なお良し、です。

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4 ミステリ仕立てだけれど芸道小説



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5 人の道と藝の道
4 歌舞伎の世界、楽しめました。


文化六年元旦、江戸最大の芝居小屋、中村座が炎上した。

焼け跡から見つかった行李の中には、男の死体が入っていた。

死因は絞殺。

小屋の身内から犯人が出ないことを祈りつつ、大夫元・十一代目中村勘三郎は、小屋再建のための策を練る。

金策のために考え出されたのは、江戸随一の女形・荻野沢之丞の改名披露。

絶世の美貌をうたわれ、希代の人気を誇った三代目荻野沢之丞には二人の倅がいた。

長男の市之介は、若い頃の父親にそっくりな美貌と、おっとりとした性格。

次男の宇源次は、さらに華やかで美しく、激しい気性。

六十を過ぎてもなお生身の女性より美しく、現役を退かなかった沢之丞は、何を思うか。

そして、更なる事件が起こる。


事件を追うのは、見習い同心・園部理市郎と、ベテラン同心・笹岡平左衛門です。

通称・三日月の旦那の笹岡平左衛門は、みかけによらず芝居に詳しい。
しかも、身分に不似合いな上品な妻がいる(美人の娘もいる)。

これで「家〜」を読むと、ほーーーー!!となります。

「道〜」を読むとさらに、をーーーー!となります。

人物の設定が巧みです。

読者が好意を持つようにつくられています。

園部理市郎が、新米同心のため、同心の基本的な仕事や、時代劇でよく見る番屋のつくりまでわかりやすいです。

理市郎は、芝居に興味を持ったことがありません。

なので、当時の芝居のことも、読者は理市郎とともに、だんだんわかってくるようになります。

芝居小屋には「お役穴」と称するニ階席が用意してあるんだそうです。

役人の見張り席です。

興行ごとに一回見ればいいのに、小屋はいつもその席を空けておくから、役人は何回も見れる。

時代劇に出てくる役人(中村さんとか渡辺さんとか)に芝居好きが多いのは、そういうことなんだ!!

木戸番、桟敷番、大道具方など、裏方の仕事にもふむふむとうなづくことしきりです。

あと、やっぱり役者。

人気役者と端役の差とか、すごいのね。

売れない女形三人組が登場します。

面白いけど、悲惨。

荻野沢之丞の弟子、荻野沢蔵はどうみてもいかつい顔した男。

でも女形。

理市郎と平左衛門に「虎魚(おこぜ)」と呼ばれてます。

この虎魚、いい味出してます。

物語は、市之介と宇源次兄弟をめぐって繰り広げられます。

裏方から、金主、立作者も、皆、怪しい。

周りがうるさいなか、渦中にいるはずの市之介がひとり冷静なのは何故か?

沢之丞は兄と弟、どちらに名を譲りたいのか?

愛憎まみれた戦いになる、と見せておいて、その先にあったものは、清々しいまでに芸一筋に生きる覚悟、でした。

タイトルの「非道、行ずべからず」は風姿花伝の

〜この道に至らんと思はんものは、非道を行ずべからず〜

から。

芸の道と人の道。

両方貫くことは可能なのか?

「非道〜」「家〜」「道〜」まとめてオススメ。

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2009年10月26日

“家、家にあらず”

「吉原手引草」で第137回直木賞を受賞した、松井今朝子氏の「家、家にあらず」です。

松井氏は、「非道、行ずべからず」(マガジンハウス)、「家、家にあらず」(集英社)、「道絶えずば、また」(集英社)、の三作を「花伝書シリーズ」としています。

タイトルはすべて世阿弥の「風姿花伝」から。

「風姿花伝」からタイトルをとっているので、「芝居」は欠かせません。

「花伝書シリーズ」は、「非道〜」→「家〜」→「道〜」の順で発行されています。

時代的には「家〜」→「非道〜」→「道〜」になっています。

どこから読んでもいいと思います。

わたしは発行順に読みましたが、記事にするのは時代順。

書きやすいから。

「家、家にあらず」が他の二作と異なるのは、主人公、舞台、時代です。

他二作が、「芸に生きる男たちをとりまく物語」であるならば、この「家、家にあらず」は「女と家、血をめぐる物語」です。

男も女も人生修羅場です。

番外編みたいなものでしょうかね。

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5 結末で見事に収斂
5 集英社文庫のナツイチ、2008夏の一冊に選ばれていました。
5 主人公よりも魅かれるのは〜
5 「家」とは・・・


江戸北町奉行同心・笹岡伊織の娘、瑞江は、母の縁者だという「おば様」の勧めによって、外様大名・砥部家上屋敷の奥御殿に勤めることとなった。

お目見え以下の「三之間」勤めとなった瑞江は、女だけの世界で、権勢をふるう「おば様」こと御年寄の「浦尾」や、様々な女たちの嫉妬と欲望の渦に飲み込まれていく。

時を同じくして、瑞江の父・伊織は、人気役者・小佐川十次郎と砥部家下屋敷の御殿女中との情死事件の担当に。

瑞江の勤める上屋敷でも不可解な殺人事件が起こる。


主人公の瑞江は17歳。

母を昨年なくし、父と弟・平佐衛門の三人暮らし。

家事は父の手先の女房が取り仕切ってくれるので、そう苦労はしていませんでした。

母の縁者だという「おば様」は「嫁入り前の行儀見習い」として瑞江に奥御殿勤めを勧めます。

「おば様」といっても血縁でもなんでもないその女性は、実は、砥部家の奥向き一切を取り仕切る御年寄だったのです。

おば様こと浦尾は、瑞江のことを「部屋子」とはしないで、「三之間」勤めとし、面倒を見てくれるどころか、気にかけてもくれません。

「どうして自分をこんなところに来させたのか?」

瑞江は常に疑問に思いつつ、話は進みます。

瑞江が奥御殿初心者目線なので、読者側も、だんだんと奥のことがわかるようになっています。

奥御殿の女中の身分や役職もだんだんとわかってきます。

大名家の奥御殿は、大奥の小型版ですね。

下っ端の「三之間」や「お末」がどういう暮らしをしているのか、ドラマなどではよくわからないけれど、この作品ではくわしく書かれていて、なるほど!と思いました。

砥部家は二十三万石の外様大名。大大名と言えます。

奥向き一切を取り仕切る「御年寄」浦尾の権勢も、大奥並です。

殿様と奥方様の信任厚く、奥女中に畏敬の念を持たれる浦尾は、情に左右されない、役目に徹する女性として描かれています。

完璧な御年寄として描かれている浦尾は、過去、とある過ちをおかしています。

その浦尾を、主人公がどんな目で見つめているのか?

瑞江の視線はたびたびぶれます。

しかも、この作品は瑞江の視線で描かれていながら、瑞江の心理をすべて明かしているわけではありません。

誇らしく思うこともあれば、恐ろしいと思うこともあり、その心を見て見たくもあり、見たくもなく。

人間って、視線や心理がぶれるのが普通だと思うんです。

この人のこんなところが好きだけど、ここはいただけないわ、とか。

そういうリアルな視線、心理のぶれが、クライマックスに向けて大きな役割を果たしています。

「家、家にあらず」は、「風姿花伝」の

家、家にあらず。継ぐをもて家とす。人、人にあらず。知るをもて人とす

という部分。

この時代の女性は

女三界に家なし

女は幼い時は親に従い、嫁に行っては夫に従い、老いては子に従わなければならないとされるから、一生の間、世界のどこにも安住の場所がない。

女は血を繋ぐためだけのものなのか?

瑞江は奥御殿で、様々な女の生き方を目にします。

寵を競った側室の争いは、やがて世継争いへと発展し、男たちを巻き込み「お家騒動」勃発寸前。

ストレスを抱える女だらけの城で、女たちが憂さ晴らしのために起こした出来事は、「殺人」へと発展します。

家、家にあらず。継ぐをもて家とす。

と、いうならば、瑞江は浦尾から「女の生き方の一例」を継いだ(教えられた)、ということになります。

瑞江は浦尾のように生きるのではなく、瑞江自身が生き方を選ぶのです。

ところで、女であっても奥御殿の御年寄ほどであれば、「家」を興せるそうです。

浦尾ほどであれば知行は五百石以上(そこらの旗本以上)。

女であっても一家の主。

家名を立て、家中から養子をもらい、家を継がせることができる。

つまりは老後は一安心、墓守も一安心ってことですね。

女とは、それほど頼りなく生きていかなければならないものなのか、ああああ〜、と思ったり。

この「家、家にあらず」は、松井今朝子氏ファンの間では「直木賞」モノ!!と言われていたそうです。

「直木賞」は、よく、この作品で受賞だろう!という作品ではとれず、他の作品で受賞することが多いと言われています。

この作品もそうだったんですね・・・。

わたしも「吉原手引草」(おもしろかったですよ!)より、「家、家にあらず」のほうが、いいな、と。

どうでもいいことですが、御年寄・浦尾が、「大奥」(フジテレビ)の滝山様(浅野ゆう子)と被って仕方なかったです。

セリフが滝山様で流れてきます。

ホラ、今、再放送してるし。

この作品がドラマ化されるならば、浦尾役は滝山・・・じゃなくって浅野ゆう子さんで、是非。

瑞江の数十年後は、「道絶えずば、また」で判明します。

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2008年06月01日

“吉原手引草”

松井今朝子「吉原手引草」です。

第137回直木賞受賞作です。

最近の静かな「吉原」ブームの火付け役の作品と言われております。

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4 さすが、直木賞受賞作
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5 面白い
5 真相は・・・藪の中?!
5 花魁は何故消えた?



吉原五町でも一二を争う大見世、仙禽楼舞鶴屋の呼び出し花魁葛城は、まさに全盛を誇ろうとしていた。

美しいばかりではない。
あれほど肝のすわった花魁は後にも先にもいない。

十年に一度と謳われた若き花魁葛城。

その葛城が忽然と姿を消した。

何故?どうやって??

大門で世俗と隔たれた「吉原」から彼女が逃れる方法はあったのか?

一体何が起こったのか?

十七人の男女が語りだす「葛城」の真実と裏とは?


というわけで「吉原」モノのミステリーなんです。

ミステリー・・・うっ!!

御存知の方は御存知。

わたしはミステリー苦手なんです。

つまりはややこしい話が苦手ってことです。

この作品は葛城に関わった十七人の男女がある人物に問われて語っていく方式で書かれています。

だから、「葛城」以外の話のほうが多いぐらいです。

「吉原」のあれやこれやが語られていきます。

読みすすめていくうちに「吉原」について「手引き」されていく、というまさに「吉原手引草」です。

だんだんと真実が明かされていく構成なのですが、読みやすいか?といえば読みにくいです。

登場人物それぞれのしゃべり方が違うものですから。

しゃべり言葉をそのまま文章で読むと言うのは、なかなか難しいです。

話題のもとの「葛城」は最後まで姿をあらわしません。

この作品は、葛城が起こした「とある事件」から三ヶ月ほどたったあたりからはじまります。

吉原の時間の動きは、ゆったりしているようで実は目まぐるしく、三ヶ月のことなど忘れ去られようとしている頃なのです。

人々は葛城のことを忘れようとしながらも、なかなか忘れられない。

最後200Pを越えたあたりから急展開に入ります。

葛城がおこした事件は、実は葛城一人が起こした事件ではなかった、ということになります。

葛城という花魁の人物像はあまりに完璧すぎてつかみ難く、それがかえって「十年に一度出るか出ないかという花魁」という印象を強くしています。

それでいて読後は「すっきり」という不思議な作品でした。

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