2010年07月22日

“炎帝花山”

萩耿介「炎帝花山」です。

地元、静岡新聞の読書欄は結構な充実ぶり(マニアック)で、毎週楽しみにしております。

この本も以前新刊として紹介されていました。

「花山院(帝)」は、「冷泉院(帝)」の第一皇子。

「冷泉院(帝)」は、有名な「物狂いの帝」でして、その皇子である「花山院(帝)」もただならぬ方、と思われていたようです。

他のセンセ方の作品に登場する、花山院(帝)も、なんというか、かなり困った人です。

優美な風流者できこえ、詠む歌は美しくあわれ、絵は巧み、建築、美術工芸についても詳しかったそうですけれど。

かなりかなりかなり女癖が悪い。

花山院(帝)のお母さんは藤原伊尹の娘・懐子。

その異母姉妹である伊尹の九女(叔母)と関係を持ったのだけれど、その女性の侍女の中務(彼女の旦那は中務の役人なんでしょう)にも手をつけちゃった!

しかも、その中務の娘・平子にも手をつけちゃった!

しかも中務と平子と、両方に子どもを産ませちゃった!!

ま、平安時代はタブーがないんで、こういうことも「外聞が悪い」ってだけですが。

この人は、ただの(いや、ただのって言い方はおかしいけど)「親王」であれば、かなり後の世の評価も上がっただろうと思っていました。

この作品は花山院(帝)の「物狂い」の部分を、花山院から書いた作品。

後見なき帝の屈折した感情が渦巻いております。

花山院(帝)の乳母のひとりは(天皇の乳母はたくさんいる)、あの清少納言の最初の結婚相手・橘則光のお母さん。

田辺聖子センセはご自分の作品のなかで、則光に花山院(帝)のことをこう言わせています。

「院は本来、率直で純粋なお方なのだ。純粋すぎて、世の中に理解されないのだ」

(角川文庫・田辺聖子・むかしあけぼの 上)


炎帝 花山
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萩 耿介
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冷泉帝第一皇子として生まれた花山帝(師貞)。

祖父伊尹、母の女御懐子は他界し、確かな後見もないまま帝位に昇った彼は、思うがままに動かない殿上人に焦れていた。

己の保身にのみ走り、国政を省みようとしない臣下たち。

若さゆえの純粋さと、大胆さを、貴族たちは「冷泉帝の血」「物狂い」と噂した。

心許せるのは、最愛の女御、心氏子のみ。

その心氏子を亡くし、悲嘆にくれる花山に、過ぎた仏心を吹き込むものが現れる。


あ、「心氏」は本当はりっしんべんに氏です。

いっつも思うんですけど、歴史は、一方的に片側からだけ見てはいけないってことですよ。

史書は時の権力者に都合よく書かれていることもあるし。

わたしも、花山院(帝)の寵妃・心氏子が亡くなったのは、妊娠した心氏子を、花山院がなかなか里帰りさせなかったせいだと思っていたし。

花山院(帝)が、出家して退位したのは、心氏子が亡くなって理性を亡くしていたところを、藤原兼家と道兼父子にまんまとひっかけられたからだと思っていたし。

ま、実際そうだと思うけど(ヲイ)。

でも、そうなってしまうのにはちゃんと「理由」がある、と。

生後十ヵ月で立太子、十七歳で即位、十九歳で出家、退位した花山院(帝)。

まったく藤原氏の長者に近くなってくると、親子、兄弟、叔父甥、従兄、で平気で争うものですから、花山院(帝)もその争いの犠牲になったようなものです。

冷泉帝はほんとうにあっちの人なので、ほんとうに使いものにならず在位は短い。

その後の円融帝は、おとなしく見えて、まー、言うことを聞かないので嫌がらせして退位に追い込む。

次の花山院(帝)は、その時の氏の長者である兼家とは縁遠いので、策には嵌められる。

その次の一条帝は、藤原氏の言うなりには決してならない聡明さを持っているので、一目置いておく。

その次の三条帝も、あんまり言うこと聞かないので、嫌がらせして、退位に追い込んでおく。

こうやって見ると、清少納言や紫式部が宮仕えした時代の一条帝はともかく、他の帝は影薄いわ。

「物狂い」と言われている方が印象に残るなんて。

さてさて、花山院(帝)を嵌めて、出家させ退位に追い込んだのは、藤原兼家で、実際に出向いたのは兼家の息子・道兼です。

しかし、花山院(帝)に仏心を吹き込んだものとして、厳久という僧が登場します。

花山院(帝)と、厳久は、正反対のようで似ている、対になるものです。

何もかも恵まれながら、満たされぬ花山院(帝)と、何もかも不足しているがため僧になるしかなかった厳久。

出家、退位が謀られたものだと知りながら、厳しい修行に励む花山院(帝)に、厳久は恐れと憧れを抱きます。

花山院(帝)は、修行の果てに、救済を求め、ついに「捨身」供養(焼身)に挑むのですが・・・。

その後、花山院(帝)の行いは、魂の消滅を目指す「度脱」(簡単に言うと悪行三昧、殺戮)へと。

暴走のすえに、落ち着いたのは、「酒」と「女」という俗な世界。

帝と言えど、人は迷う。

大人しく、じっとた耐えた人よりも、ずっと悪く言われるけれど、印象は残る。

円融帝とか小説の主人公にはなりませんが、花山院(帝)ほど強烈な人だと、小説の主人公になれる。

ま、花山院(帝)を主人公にした作品を、わたしはこの作品しか知りません。

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posted by くみ at 12:06| 静岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(文芸・評論) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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