2009年07月21日

“IN”

桐野夏生「IN」です。

「OUT」から12年。

桐野夏生が、「小説」そのものに挑む問題作です。

「OUT」は、鬱屈した日常から抜け出したい主婦たちの物語でした。

彼女たちの視線、行動は外へ外へと向けられていました。

「IN」は、作家が、作家である己に問う物語です。

内へ内へと潜り込むような視線で描かれています。

内容的には「OUT」と「IN」はまったく関係ありません。

この小説を読んでいるうちに、わたしは、「源氏物語」のある部分を思い出しました。

「源氏物語」の「蛍」の章です。

この章には、作者・紫式部の「小説論」が語られている、と言われています。

日本紀などはただかたそばぞかし~

日本紀などの歴史書は、ただ事実を並べたにすぎない。

物事のただ一面でしかない。

物語の中には、世の中のあらゆることが書いてある。

物語は、読者の要求にしたがってはいるが、それも、すべて世間にありうることなのだ。

虚構である物語のなかにこそ、真実はあるのだ。


というような内容です。

「IN」では、「小説に書かれてしまった真実は、その時点で虚構である」というような文章が、何回か登場するのです。

小説は悪魔ですか。

それとも、

作家が悪魔ですか?


IN
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桐野 夏生
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小説家・鈴木タマキは、かつての文豪「緑川未来男」が書いた『無垢人』という作品のなかに登場する、「○子」という女性を主人公に『淫』という小説を書こうとしている。

『無垢人』は、緑川未来男と、その妻・千代子。緑川の愛人「○子」との修羅場を実名で書いた作品だった。

『淫』のテーマは「恋愛における抹殺」

たかが恋愛、と笑う人々は何も知らないのだ。


タマキには、編集者・阿部青児と、お互いに家庭がありながら愛しあい、最後には憎み、恨み、別れた過去があった。

何回も読み返しました。

なんだか、妙な気持ちになってくるんですね。

鈴木タマキと阿部青児の恋愛。

緑川未来男の『無垢人』の修羅場。

のシンクロに、??となってしまうのです。

『無垢人』は、私小説です。

で、この「IN」では

「真実は真実ではない」

「真実と思えたものを書いた時点で、それはフィクションになる」


などの議論がある。

あれ?じゃ、鈴木タマキと阿部との恋愛は??あれ??これって桐野夏生の「私小説」??

と、変な勘違いを起こしそうになるのです。

緑川未来男の『無垢人』が、作中に「入れ子」になって登場するのです。

この『無垢人』は、現実にある作品ではないか?と思いそうになってきます。

『無垢人』のモデルは、実際は島尾敏男の『死の棘』らしいです。

『死の棘』って読んだことないんですけど、いろいろと壮絶だということは知ってます(母の本棚にある)。

で、『無垢人』の部分も、それはそれは壮絶なのです。

しかも、タマキと阿部の別れ話のあたりの負のエネルギーなんかも、もう泥沼です。

不倫とかしてる人は、この本読むと、ゾッとするんではないか??

不倫どころか恋愛してないわたしもゾッとするので。

桐野夏生の作品は、「ものでも人でも、強烈に描くことで、かえって読者のなかのリアルを引き出す」と常々思っているのです。

「殺人」「事件」でも「あり得ないもの」ぐらい強烈なものをモチーフに持ってくることが多いのですが、「IN」では「恋愛」という、世間で結構あり得るものをテーマに持ってこられたので、衝撃というよりも、侵食してくるような不気味さが・・・・・・。

「恋愛における抹殺」とは、相手との関係を一方的に断ち切ることで相手の心を殺すこと。

虚構である小説に書かれてしまったことで「抹殺」された「○子」の周囲に立ち込める悪意。

「抹殺」しつづける「作家」たち。

たかが恋愛、と笑う人々は何も知らないのだ。


「知りたくありません」と言いたくなります。

いかにも、身を削っているように書かれているこの「IN」

それが小説家の「業」なのか、それとも小説家ゆえの「テクニック」であるのか、もうまんまと桐野センセのワナにハマっているようで、何がなんだかわからくなります。

読み返したくなる作品なのですが、読み返すとますますわからなくなります。

わたし、今まで桐野センセの傑作は「グロテスク」だとずっと思ってきましたが、「IN」もやっぱり傑作、としか言えません。

ところで、この「IN」の公式サイトが、ホラーかよっ!!というくらいものすごいことになっているので、興味のある方はぜひどうぞ→公式サイト・集英社 桐野夏生「IN」

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posted by くみ at 23:32| 静岡 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(桐野夏生) | 更新情報をチェックする
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