2009年04月09日

“キス”

キャスリン・ハリソン著「キス」です。

この本は刊行と同時に全米で大きな話題を呼んだそうです。

マスコミの報道はかなり過熱気味であり、下世話な取材もあったらしい。

『実父との近親相姦の日々』を作家の娘が語る、という内容は、衝撃的で人々の興味を引くものではあります。

しかし、ページを開けば、そこにあるのは、著者が極めて真摯に、冷静に語った、三世代に渡る親子のあり方、家族関係にメスを入れた、重い物語です。

読む人間は覚悟しないといけません。

キス (新潮クレスト・ブックス)
キャスリン ハリソン
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それからの年月、あのキスの一刺しがわたしを変えたと思うことだろう。


著者の父と母は若くして恋に落ち、娘が生まれます。

しかし、裕福であった母方の祖父・祖母に受け入れられなかった父は家族を追い出されてしまいます。

離婚。

父は牧師となり、離れた地で新しい家族を築きます。

娘は美しく成長し、父と再会。

そこから始まった、父と娘の禁忌。

一見、父と娘の関係を描いた作品なのですが、母と娘の関係に深く考えさせられました。

母もまた、自分の父母との関係を上手く築けなかった人なのです。

それゆえに、若きころ、母は父に恋をしたのです。

母に認められたくて、そして母を拒絶したくて、娘は拒食症になります。

これはわかる気がする。

若く美しい母には大勢の恋人がいたが、母は新しく家庭を築いた父とも、どこかで会っていた。

最初は母に体重のことを言われたくなくて、認められたくて食を細くした。
しかしそれは同時に母が母であるまえに女であることを拒絶したい、母のような女になりたくないという気持ちが、自分の体から丸みを削いでいくことに・・・。

二十歳になった娘が父と再会したのは十年ぶり、三回目のことでした。

これも、母が父と会いたくて計画したことなのです。

しかし、父親は美しく成長した娘に目を奪われます。

月経も止まるほどに痩せた身体に、ブロンドの髪の毛だけは腰まで伸ばした娘。

髪の毛は女のシンボルとも言われてますね。

その美しさは「いびつ」なだったに違いありません。

その再会から、父親の娘への執着がはじまります。

父性を求める娘は厭いながらも、父の誘いに・・・。

この父親の娘への執着はなんだったのでしょうか?

父親は、娘の祖父祖母に追い出された人です。

どこかに、復讐的な気持ちが潜んでいたのかもしれません。

本当は別れたくなかった。愛していた。いまでも愛している。

何度も何度も父親や娘に語りかけます。

父親は娘の性格や弱点を見抜き、狡猾に娘を追い詰めていきます。

やがて、娘は追い詰められ、父と娘は禁忌の関係に陥ることに。

父親はそれからも執拗に娘を縛り付けます。

最初の関係が結ばれたのが、なんと父親の実母の家。

父親もまた自分の両親との関係に歪んだものを抱えていたのです。

二人の関係に終止符が打たれたのは、母が病で亡くなったときでした。

人間の形成において、親、家族との関係がどれほど大事であるか思い知らされます。

読者は、自分の身を考えずにはいられなくなります。

著者・キャサリン・ハドソンはこの作品を発表するまえから、自分の体験をモチーフにした作品を発表していたそうです。

創作しつづけるものの運命なのか、著者は自分の体験を見つめなおし、清算しなければ、先へ進めないと思った。

何度も何度も時間をかけ考え、自分の夫にも相談し了承し、この作品を発表するに到ったそうです。

己の傷の在処を、確かめ、認めた著者。

作家としての「業」を感じます。

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posted by くみ at 16:34| 静岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(ノンフィクション) | 更新情報をチェックする
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