2009年10月26日

“家、家にあらず”

「吉原手引草」で第137回直木賞を受賞した、松井今朝子氏の「家、家にあらず」です。

松井氏は、「非道、行ずべからず」(マガジンハウス)、「家、家にあらず」(集英社)、「道絶えずば、また」(集英社)、の三作を「花伝書シリーズ」としています。

タイトルはすべて世阿弥の「風姿花伝」から。

「風姿花伝」からタイトルをとっているので、「芝居」は欠かせません。

「花伝書シリーズ」は、「非道~」→「家~」→「道~」の順で発行されています。

時代的には「家~」→「非道~」→「道~」になっています。

どこから読んでもいいと思います。

わたしは発行順に読みましたが、記事にするのは時代順。

書きやすいから。

「家、家にあらず」が他の二作と異なるのは、主人公、舞台、時代です。

他二作が、「芸に生きる男たちをとりまく物語」であるならば、この「家、家にあらず」は「女と家、血をめぐる物語」です。

男も女も人生修羅場です。

番外編みたいなものでしょうかね。

家、家にあらず (集英社文庫)
松井 今朝子
集英社
売り上げランキング: 44405
おすすめ度の平均: 5.0
5 結末で見事に収斂
5 集英社文庫のナツイチ、2008夏の一冊に選ばれていました。
5 主人公よりも魅かれるのは〜
5 「家」とは・・・


江戸北町奉行同心・笹岡伊織の娘、瑞江は、母の縁者だという「おば様」の勧めによって、外様大名・砥部家上屋敷の奥御殿に勤めることとなった。

お目見え以下の「三之間」勤めとなった瑞江は、女だけの世界で、権勢をふるう「おば様」こと御年寄の「浦尾」や、様々な女たちの嫉妬と欲望の渦に飲み込まれていく。

時を同じくして、瑞江の父・伊織は、人気役者・小佐川十次郎と砥部家下屋敷の御殿女中との情死事件の担当に。

瑞江の勤める上屋敷でも不可解な殺人事件が起こる。


主人公の瑞江は17歳。

母を昨年なくし、父と弟・平佐衛門の三人暮らし。

家事は父の手先の女房が取り仕切ってくれるので、そう苦労はしていませんでした。

母の縁者だという「おば様」は「嫁入り前の行儀見習い」として瑞江に奥御殿勤めを勧めます。

「おば様」といっても血縁でもなんでもないその女性は、実は、砥部家の奥向き一切を取り仕切る御年寄だったのです。

おば様こと浦尾は、瑞江のことを「部屋子」とはしないで、「三之間」勤めとし、面倒を見てくれるどころか、気にかけてもくれません。

「どうして自分をこんなところに来させたのか?」

瑞江は常に疑問に思いつつ、話は進みます。

瑞江が奥御殿初心者目線なので、読者側も、だんだんと奥のことがわかるようになっています。

奥御殿の女中の身分や役職もだんだんとわかってきます。

大名家の奥御殿は、大奥の小型版ですね。

下っ端の「三之間」や「お末」がどういう暮らしをしているのか、ドラマなどではよくわからないけれど、この作品ではくわしく書かれていて、なるほど!と思いました。

砥部家は二十三万石の外様大名。大大名と言えます。

奥向き一切を取り仕切る「御年寄」浦尾の権勢も、大奥並です。

殿様と奥方様の信任厚く、奥女中に畏敬の念を持たれる浦尾は、情に左右されない、役目に徹する女性として描かれています。

完璧な御年寄として描かれている浦尾は、過去、とある過ちをおかしています。

その浦尾を、主人公がどんな目で見つめているのか?

瑞江の視線はたびたびぶれます。

しかも、この作品は瑞江の視線で描かれていながら、瑞江の心理をすべて明かしているわけではありません。

誇らしく思うこともあれば、恐ろしいと思うこともあり、その心を見て見たくもあり、見たくもなく。

人間って、視線や心理がぶれるのが普通だと思うんです。

この人のこんなところが好きだけど、ここはいただけないわ、とか。

そういうリアルな視線、心理のぶれが、クライマックスに向けて大きな役割を果たしています。

「家、家にあらず」は、「風姿花伝」の

家、家にあらず。継ぐをもて家とす。人、人にあらず。知るをもて人とす

という部分。

この時代の女性は

女三界に家なし

女は幼い時は親に従い、嫁に行っては夫に従い、老いては子に従わなければならないとされるから、一生の間、世界のどこにも安住の場所がない。

女は血を繋ぐためだけのものなのか?

瑞江は奥御殿で、様々な女の生き方を目にします。

寵を競った側室の争いは、やがて世継争いへと発展し、男たちを巻き込み「お家騒動」勃発寸前。

ストレスを抱える女だらけの城で、女たちが憂さ晴らしのために起こした出来事は、「殺人」へと発展します。

家、家にあらず。継ぐをもて家とす。

と、いうならば、瑞江は浦尾から「女の生き方の一例」を継いだ(教えられた)、ということになります。

瑞江は浦尾のように生きるのではなく、瑞江自身が生き方を選ぶのです。

ところで、女であっても奥御殿の御年寄ほどであれば、「家」を興せるそうです。

浦尾ほどであれば知行は五百石以上(そこらの旗本以上)。

女であっても一家の主。

家名を立て、家中から養子をもらい、家を継がせることができる。

つまりは老後は一安心、墓守も一安心ってことですね。

女とは、それほど頼りなく生きていかなければならないものなのか、ああああ~、と思ったり。

この「家、家にあらず」は、松井今朝子氏ファンの間では「直木賞」モノ!!と言われていたそうです。

「直木賞」は、よく、この作品で受賞だろう!という作品ではとれず、他の作品で受賞することが多いと言われています。

この作品もそうだったんですね・・・。

わたしも「吉原手引草」(おもしろかったですよ!)より、「家、家にあらず」のほうが、いいな、と。

どうでもいいことですが、御年寄・浦尾が、「大奥」(フジテレビ)の滝山様(浅野ゆう子)と被って仕方なかったです。

セリフが滝山様で流れてきます。

ホラ、今、再放送してるし。

この作品がドラマ化されるならば、浦尾役は滝山・・・じゃなくって浅野ゆう子さんで、是非。

瑞江の数十年後は、「道絶えずば、また」で判明します。

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posted by くみ at 21:46| 静岡 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(松井今朝子) | 更新情報をチェックする
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